DAISYのアクセシビリティとEPUB3への期待

「DAISYのアクセシビリティとEPUB3への期待」

読める人にとって、読めない人のニーズは分かりにくい。
これまで、ディスレクシアや視覚障害等、DAISY図書を活用している人との交流を通じて見聞きしてきた当事者のニーズや、DAISYコンソーシアムで話し合われてきたアクセシビリティが、分かりにくく、うまく伝わっていないと感じることが多いため、これまで見聞きしてきたことを書いてみたいと思った。

EPUB3 でルビや縦書き等の日本語対応がされ、日本では特にEPUB3を活用した電子書籍の出版が進んでおり、他国からも注目を集めている。EPUB3は、アクセシビリティにも対応した。これまでのDAISYは、紙で印刷された書籍を、ボランティアがテキストを作ったり録音したりしてDAISY化するという手順で作られてきたため、多大な労力と時間がかかり、利用者はなかなか自分の読みたいものを読みたいときに入手することはできなかった。EPUB3で、アクセシブルな電子書籍の出版が実現されれば、障害のある人も、電子書籍を購入したらすぐに読むことができるようになる。アクセシブルなEPUB3出版により、現在のDAISYユーザーの読書環境が飛躍的に改善されることが期待されている。

上流からの解決のために、最初の設計の時点で、電子書籍関係者、支援技術関係者、障害のある当事者などが、お互いのニーズを理解し、話し合うことが重要だと思う。
ここに書くことは個人的な見解のため、他の意見のある方もいると思うので、フィードバックを歓迎します。

アクセスとは?
日本語の本を渡されれば読める(アクセスできる)が、アラビア語の本を渡されたら読めない(アクセスできない)。
視覚障害者に、紙の本を渡しても、読めない(アクセスできない)。
上肢障害者に、紙の本を渡しても、本を手で持ってページをめくれなければ読めない(アクセスできない)。

障害のある人はどうやって読んでるの?
・視覚障害やディスレクシア(注1) (読み障害)の人は、パソコンの画面読み上げソフトを使っている。画面上の文字だけでなく、メニューボタンや、HTMLの構造等も、画面読み上げソフトで読むことができるので、全く目の見えない人でも、パソコンを使うことができる。
・盲ろうの人は、パソコンに、USBで点字ディスプレイ(画面に表示されているテキストが、点字に自動変換されて、6つの点が上下して、デジタルの点字を読むことができる)を接続したり、点字携帯端末(点字ディスプレイ付のコンピュータ端末)にファイル(Word、HTML、テキストファイルやDAISY(注2) 等)をコピーして、読んでいる。
点字ディスプレイ
・ALSの人や上肢機能障害のある人は、パソコンに様々なスイッチを接続したり、画面上のキーボードを視線の移動で操作できるスキャニング技術を使ったりして、ページ移動等の操作をして読んでいる。
・弱視やディスレクシアの人は、自分の読みやすい文字サイズ、フォント(ゴシックでないと読むのが困難な人等もいる)、行間、コントラスト(背景が黒で文字が白でないと見にくい人、背景に薄い色がついていないと見にくい人等がいる)等の情報を、自分のパソコンのブラウザやソフトなどに設定している。
・他にも印刷された点字図書や拡大図書、音声など様々な読み方がある。
・DAISYを活用している人たちは、それぞれ自分の使いやすい再生ツールを使って(無償のソフトから、有償の専用再生機まである)、見出しやページ、テキスト検索やしおり機能などを活用して、本の中を移動しながら、音声・マルチメディア・点字等で読んでいる。

読みにくさのニーズは、想像を絶する多様さ
アクセシビリティって、音声があればいいの?フォントサイズを3段階くらい変えられればいいの?と思うかもしれない。
分かりやすく説明するのが難しいが、例えば、メガネひとつとっても、近視の人、遠視の人、乱視の人等がいて、また、左右で視力が違ったり、近視と老眼の両方があったりする。見えやすいメガネは、人それぞれ違う。
人それぞれニーズが違うので、平均値を出して3つだけメガネを作って、選んでくださいと言われても、ほとんどの人にとって、不便である。毎日使うものだから、レンズの問題だけでなく、重さや形等の使い勝手も、各自が自分にあったものを選びたい。
それと同じように、印刷物を読むことに困難のある人にとって、見やすい文字サイズ・フォント・色は人それぞれ違い、また、テキストを合成音声を使って読みたい人もいれば、肉声で読みたい人もいる。視野が限られた人は、自分の視野の範囲にテキストを表示しなければならない。テキストを見ながら同期した音声を聞きたい人もいる。再生速度を3倍にして聞きたい人もいれば、遅くして読みたい人もいる。人によって聞き取りやすい合成音声の種類も違う。
1つのアプリで、それらすべてのニーズに対応することはできない。
障害のある人は、普段自分が使っているツールを使って、最適な環境で、本を読みたいのだ。

では、どうすれば良いのか?
1つのアプリで、すべての人のニーズに対応することはできないが、
ユニバーサルデザインと、支援技術の組み合わせで、多様なニーズに対応することができる。
ここでいう
支援技術とは、点字端末や、音声読み上げソフトのことで、
ユニバーサルデザインとは、それらの支援技術で読むことができるコンテンツのことである。

支援技術で読むことができるコンテンツって?
・点字端末や、音声読み上げソフト等で開ける
障害のある人たちは、自分が使いやすいツールを使っているので、電子書籍が、それらのツールで開ける必要がある。
・テキストデータ
点字端末や、音声読み上げソフトは、テキストデータを自動変換して、出力するので、テキストデータが必須である。
画像のみでEPUB(注3)を作ることもできるが、そうすると、点字端末や音声読み上げソフトでは読むことができない。
画像のみのEPUBの各ページにテキストデータを入れた場合、本全体でのテキスト検索等ができないため、視覚障害者が活用するのは困難である。
・マークアップ
本には、見出しやページや脚注等が、それと分かるように紙面にデザインされて配置されているが、それが全て音声になったとき、どれが見出しで、どれが脚注か、分からなくなってしまう。そこで、見出しや脚注のテキストに意味づけが必要になる。意味づけ(HTMLのマークアップ)されていると、パソコンはそれを認識して、読み手に伝えることができる。例えば、音声読み上げの際に「見出しレベル2 DAISYとは?」と読み上げることができる。表であれば、「3列、2行の表です。」と自動認識して読み上げることができる。書籍に必要な、マークアップ等について規定されているのが、DAISY/EPUB規格である。
・DAISY/EPUB3規格
DAISY/EPUB3規格の電子書籍があれば、障害のある人は、普段自分が使っているツールを使って、読める(アクセスできる)。
DAISY/EPUB3コンテンツを作る側は、規格に沿って、マークアップしたデータを1つ作れば、それだけで、アクセシビリティに対応したことになる。いちいち、多様な障害者への対応を考えて、音声や拡大や点字版を作りなおす必要がない。ワンソース・マルチユースの考え方である。
テキストデータの入った、マークアップされたデータがあれば、障害のある人が支援技術を活用して自分で読んだり、支援者が点字や音声等に変換したものを渡すことができる。
EPUB3/DAISYコンテンツを様々な支援技術で読んでいる図

DAISYとは?
以前は、視覚障害者はカセットテープで録音図書を聞いていたが、カセットテープだと、巻き戻し、早送りを繰り返しても、読みたいところを探すのが困難で、また、一冊の本が複数のテープに録音されている場合、聞きたいカセットを探すのも困難であった。カセットテープから、デジタルに移行するとき、国際図書館連盟の障害者セクションの代表者が話し合い、国際規格であるDAISYを開発することとなり、1996年にDAISYコンソーシアムが設立された。DAISYは、プリントディスアビリティ(印刷物を読むことに困難のある人々)が本にアクセスするために開発されている規格である。
DAISY規格のコンテンツを作れば、DAISY規格に対応している再生ツールで本を読むことができる。
・特徴
-W3Cの標準規格を採用しているので、開発が持続的
-クロスプラットフォーム (特定のOSやブラウザに依存せず、多様な環境で使える)
-見出しやページ等へすぐに移動できる(HTMLマークアップ)
-テキストと音声が同期できる(SMIL)(テキストだけ・音声だけのコンテンツも可)
・コンテンツと再生ツール
DAISYでは、コンテンツと再生ツールは切り離して考えられている。
コンテンツは、できるだけシンプルに作り、多様な機能は再生ツール側で対応するのが理想である。
コンテンツ自体を作りこんでしまうと、汎用性がないし、アップデート等も大変である。HTMLとCSSで、内容とデザインを切り離すのと似たような考え方である。
例えば、学習にDAISY図書を使うので、蛍光ペンで下線を引きたいという要望がある場合、下線を引けるような機能を持つ学習用ソフトウェアが、DAISYファイルを開けるように対応するというのが、理想である。開いたDAISYファイル自体には手を加えないが、開いている学習用ソフトウェアの画面上では、線を引いたように見えるという具合である。
・DAISYの活用の現状
DAISY規格は、50以上の国で採用されており、アメリカでは連邦法で教科書のアクセシビリティの標準規格として採用されていて、DAISYフォーマットに対応した学習ツールも多い。北欧でもDAISY規格の電子書籍は国の予算で製作・提供されている。
再生ツールは、無償のもの、有償のもの、ソフトウェア、ハードウェアなど多様。
日本では、2014年9月現在1600人以上の、ディスレクシア等読みに困難のある生徒が、テキストと音声の入ったDAISY教科書を使っている。利用者は増え続けている(文科省の調査で、通常学級に在籍する、知的発達に遅れはないものの、学習面で著しい困難を示す生徒は、4.5%)。音声のDAISY図書は、オンラインの図書館に5万タイトル以上あり、12000人以上の視覚障害者が活用している。

DAISYからEPUB3へ
DAISYは、アクセシビリティのために開発された電子書籍の規格で、EPUBは、出版社が中心になって開発された電子書籍の規格である。DAISYコンソーシアムはEPUBを開発しているIDPF(国際電子出版フォーラム)のメンバーであり、EPUBのアクセシビリティ確保のために技術開発にも積極的に参加してきた。2011年にEPUB3に更新されたとき、DAISYのアクセシビリティの機能をすべてEPUB3規格に入れることで、DAISY4の配布フォーマットとしてEPUB3が採用された。
国際規格を2つ継続して開発するには、2倍のリソースが必要になるので、2つの規格を1つにすることで、半分のリソースで、メインストリームの電子書籍フォーマットでアクセシビリティを実現することを目指したのだ。
DAISYの最高技術責任者であったマーカス・ギリング氏は、現在IDPFの最高技術責任者でもある。
DAISY2.02とDAISY3規格には、日本語のルビと縦書きが含まれていないが、EPUB3では、日本語のルビと縦書きもサポートされたので、DAISYからEPUB3への移行によって、日本語の書籍の製作・再生環境の改善が期待される。

EPUB3への期待
一度印刷されたものを、DAISYや音声等に変換するのではなくて、最初からアクセシブルな出版を、EPUB3で実現することが期待されている。
印刷された書籍を、DAISYや音声等に変換するには、テキストデータを作り直すところから作業しなければならず、大変な時間と人手がかかるため、必要としている人がいても、提供できなかったり、時間がかかりすぎたりしてきた。一刻も早い、上流からの解決(最初からアクセシブルな書籍)が望まれる。

障害があって紙の書籍が読めない人の中にも、読書が大好きな人がたくさんいて、もっと読みたいと願っている。
読書が趣味だった人が高齢になり、小さい字が読みにくくなったけど、なんとか読書をしたいというケースも多い。
電子書籍は、これまで読むことができなかった人たちに、読書の機会を開く可能性を持っている。

注1)知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する能力のうち特定のものに著しい困難を示す状態の総称を「LD(学習障害)」という。中枢神経系に何らかの機能障害があると推定され、このうち特に読み書きに困難を伴う場合を「ディスレクシア」(読み書き困難)という。

注2)Digital Accessible Information Systemの略称。各国の図書館と障害者支援団体が構成するスイスに籍を置く国際非営利法人であるDAISYコンソーシアム(http://www.daisy.org/)が規格の開発と維持を行っている。

注3)国際電子出版フォーラム(IDPF)が開発と維持を行っている電子書籍フォーマットの国際標準規格。

関連ウェブサイト
DAISY Consortium (英語):http://www.daisy.org/
IDPF (英語):http://idpf.org/
エンジョイ・デイジー:http://www.dinf.ne.jp/doc/daisy/
ATDO:http://www.normanet.ne.jp/~atdo/

ATDO 濱田麻邑 2014/9/19