新規コメントの追加

2011年DAISYコンソーシアム総会と講演会に参加して -レポート-

2011年DAISYコンソーシアム総会と講演会に参加して -レポート-

DAISYコンソーシアムの理事会、総会と講演会が、2011年5月3日から6日に、フィンランドのヘルシンキで開催された。フィンランドは、日本から見ればヨーロッパの入り口で、飛行機でロシア上空を通過して初めに到着する場所である。

会場は、視覚障害者のための職業・生活訓練、余暇活動等の複合施設のiirisで、その3階のフロアは、フィンランドの国立録音点字図書館であるCelia(セリア)図書館である。内装はアクセシビリティを徹底したデザインで、あらゆる手すりには場所を示す点字表示があり、床には白杖で移動し易いように凹凸が付いている。入口には、日本人がデザインした触地図があり、建物の全体像をつかめるようになっている。目が見える人でも楽しめる地図だ。内装は緑と白など弱視者にもわかりやすいはっきりとした配色になっている。庭には盲導犬のためのドッグランもある。レストランもあり、施設利用者だけでなく、誰でも利用できるため、フィンランドの昔ながらの手料理を楽しみたい近所の人たちが食事をする場になっている。
 

近所の人が気軽にレストランで食事をしたり、館内のデザインが目が見える人にもきれいで、日光がふんだんに取り入れられるようになっていたり、根底にあるユニバーサルデザインの精神が垣間見え、居心地がいい。

フィンランドは自然が豊富で、海と森に囲まれている。水道の蛇口からおいしい水が飲める。冬には氷が張って、夏には船で渡る場所まで歩いて移動できる。冬は氷に穴をあけて泳ぎ、サウナに直行するそうだ。

15周年記念パーティー
今年はDAISYコンソーシアム創立15周年であり、4日夜に記念パーティーがあった。
初代DAISYコンソーシアムの会長を務めた、スウェーデンのインガー・ベックマン氏(スウェーデン国立録音点字図書館(TPB)前館長)の、DAISYの歴史に関するスピーチから始まった。TPBの学生図書館館長であったシェル・ハンソン氏と技術者のラース氏や、IFLAのSLB(国際図書館協会の障害者サービスセクション)の河村宏氏、英国王立盲人協会、オランダおよびデンマークの視覚障害者教材図書館等が協力して、DAISYの構想を固め、実用化に向けて動き出したことや、スウェーデンのラビリンテンが初の製作ソフトをつくったことや、日本のシナノケンシがプロトタイプのDAISY再生ハードウェアをつくり、河村氏が30カ国以上に持参して評価を行ったお話だった。詳しくはインガー氏の「DAISYを語る」にある(http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/info/ifla2006/ws_ingar.html)。
その後、2代目会長であるエリザベス・タンク(デンマーク国立盲人図書館)氏のスピーチがあり、最初は技術的にもまだ未完成で、技術開発と、それを理解してもらうことに大変な苦労をしたが、ここまでDAISYは成長したので、今後も苦労しながら、ますます技術的に良いものになり、多くの人が活用するだろうと語った。
その後、3代目で現会長である河村宏氏(日本DAISYコンソーシアム)のスピーチがあり、
創立から15年の間に、DAISYの構想からはじまり、DAISY1、2、3と急ピッチで規格の開発と普及が進んできた。今年5月にはDAISY4が完成し、メインストリームの電子書籍の規格であるEPUB3との統合も実現し、誰もが使えるスタンダードとなると締めくくった。
パーティーの最後には、WIPO(世界知的所有権機関)のアクセシビリティの担当者が、
出版社の人も、障害のある人が情報にアクセスできることを望んでいるので、今後も、調整を続け、よりよい環境をみんなで作っていけるようにしていきたいと語った。

年次総会
5日には、午前中はiirisとCelia図書館の見学があり、午後にDAISYコンソーシアム年次総会があった。 
総会では、2012年1月からの4年間、RNIB(英国王立盲人協会)のスティーブンキング氏が会長に就くことが決まった。
技術の進捗に関するディスカッション等があり、技術の変化が激しい中で、メンバー団体に分かりやすく、迅速に、最新情報を伝えていくことに、どこも苦労しているようすが分かった。

DAISY Today 講演会
6日は、DAISY todayという講演会が開かれた。

オープンニングスピーチには、文部科学省大臣が忙しいスケジュールをぬって駆けつけた。

次に、ジョージカーシャー氏が基調講演で、技術的な進捗の話をした。
次世代規格であるDAISY4は、HTML5のサブセットを採用する。HTML5は多様なデバイスで扱われ、表示ができるようになる予定である。
DAISY4規格は、9月にテストやライセンス関係の処理も終わって、年度末には使えるようになる予定だ。
DAISY3では、製作・交換フォーマットと配付フォーマットが一緒だったが、DAISY4では、これがDAISY AI(製作・交換フォーマット)とDAISY sictribution(配付フォーマット)に分かれる。分かれることで、それぞれを最適化でき、DAISY再生・製作ツールの開発も容易になる。
次世代バージョンのDAISY4とEPUB3の開発では、IDPFとDAISYは、共同で開発をし、DAISYのアクセシビリティに関する必要要件を、EPUBが受け入れ、それらを反映した。
EPUB3は、画面の大きさが違う多様なデバイスでもリフローし、正しい(論理的な)順番で読み上げが可能(PDFにはできなかった)。また、多言語対応も進み、縦書きやアラビア語の右から左への読みもサポートする。
これまでのように、出版の規格と別に、アクセシブルな規格を作るのではなくて、出版の規格自体をアクセシブルにできるようになる。しかし、EPUB3の規格にはJavascript等も含まれ、作り方によっては、アクセシブルでないものができる可能性もある。
それを回避するためには、製作ツールにアクセシビリティチェッカーを入れたり、アクセシビリティの関係者だけでなく、一般的な電子出版関係者への講習も提供する必要がある。
PipelineはDAISYの様々なバージョンや、EPUB2と3等の相互変換をするためのソフトで、DAISY4とEPUB3規格のサポートも進んでいる。
DTPソフトである、Indesignは現在EPUB2への出力をサポートしており、EPUB3もサポートする予定だが、質を向上しないといけない。QuarkXPressは、特に視覚的な情報を中心にしたものなので、困難だが、EPUB3をサポートする可能性があると考えられる(まだ発表はないが)

イギリスのスティーブン・キングの講演では、どのように電子書籍のアクセシビリティが向上してきたかの話があった。
イギリスでの運動の紹介があった。
2002年 WBU、IFLA、DC、出版者と権利保護機関が、図書館サービスがないという現実を相談した。
2003年 死ぬ前に本が読みたいという運動がおこった。
2004年 95%の本がアクセシブルでないといわれていた。
2006年に「Where’s my book(私の本はどこ?)」という運動がおこった。
世界には3億人のプリントディスアビリティがいると言われている。
まだまだ課題は山積みだが、みんなで少しずつ改善していこうと締めくくった。

オランダ dediconのMaartenの講演では、ハイブリッドブックという、DAISY規格を使って、印刷された図書のレイアウトそのままを画面に表示して、再生できる図書の紹介があった。
ハイブリッドブックは、出版社がお金を出してdedicon(オランダの点字図書館)に発注し、出版者はそれを学校に販売している。購入した学校では、障害のある生徒もない生徒も誰でもこのハイブリッドブックを使うことができる。
また、オランダの学校では、ディスレクシアの生徒は、DAISY版の教科書だけではなくて、Kurzweil (http://www.kurzweiledu.com/kurz3000.html)やSprint( http://www.sprintplus.be/EN/index)といった、読み書き支援ソフトも併用して活用している。

最新のDAISYハードウェアの紹介が、企業からあった。ヒューマンウェアのstratusとシナノケンシのPTX1 PROが紹介された。どちらも、オンライン配信を実現したものだった。
Stratusは高齢者のユーザーの多いフィンランド向けに開発された。

アメリカのBookShareは、テキストのみのDAISYファイルを、サーバにアップロードして共有(シェア)することで、印刷物を読むことに困難のある人たち(プリントディスアビリティーズ)が検索してダウンロードできるサービスで、現在約9万冊が登録されているが、インドやオーストラリア等、利用者が世界中で増えているという報告があった。

フィンランド・メディア・インダストリー(FINNMEDIA)からは、フィンランドでのeリーディングのプロジェクトの報告があった。

デンマークのロボ・ブレイルからは、多様なファイルを入力して、DAISYや音声ファイル等に出力する変換ツールの紹介があった。

その後、ヘルシンキ市立図書館から、図書館でDAISYの提供において、どういうことができるかという話があった。

最後に、フィンランド視覚障害協会から、フォンランドにおける、DIASYのオンライン配信について話があった。

その他
会議には、各国からDAISYの関係者が参加していた。
私が今回初めてあったのは、ボスニアとクロアチア、アイスランドからの参加者であった。

クロアチアでは、MyStudioPCを現在使っており、インドからOBIの講習をSKYPEで受けたそうだ。今後は、教科書も作りたいので、テキストと音声の入った図書を作りたいと考えているが、MyStudioPCでは製作できないので、他のソフトの使い方を覚える必要があるという。DAISYトランスレータとTobi、または、DolphinPublisherが使えるのではないかと思う。

ボスニアでは、これからDAISYを始める予定で、隣国のクロアチアから学びたいと考えているそうだ。

ブラジルからは、DAISYLatinoを代表してドリーナ財団のPedroが参加していた。
ブラジルでは、ドリーナリーダーという、無償でオープンソースのポルトガル語のDAISY再生ソフトを自分たちで開発し、利用している。今後は、試験問題に対応したアプリケーションも開発する予定とのことだ。
日本にはブラジル人子弟も多く、立命館大学とアジアブラジル学園のプロジェクトなどで、日本語とブラジル語の入ったDAISY図書の試作もされている。

技術は進歩し、各国で、オンラインの取り組みや、学習障害者のためにレイアウトを再現しながら、音声シンクロを実現する取り組み等がされている。是非日本でも実現できたらと思う。
規格の進捗においては、5月に完成予定のEPUB3では、縦書きやルビの対応がされるので、特に日本にとっては、大きな進歩であり、期待が大きい。
今後も、日本国内でもより多くの人が協力して、技術の進歩を最大限に活用して、苦労している人たちの情報アクセスの環境を少しでも改善できればと思う。

2011年5月18日 ATDO濱田